〜〜タマアジサイのあれこれ〜〜
タマアジサイの名は、蕾がしっかりした苞(ほう・苞葉)に包まれ、大きなまん丸い形になることによります。
まさに咲こうとしている蕾、2004.9.3.箱根

蕾が完全に展開したところ、2004.9.3.箱根
1.タマアジサイの分布など
タマアジサイの花は、ヤマアジサイやガクアジサイより遅咲きで、7月〜9月に開花が見られる。タマアジサイの開花は、ヤマアジサイやガクアジサイのように1株の花が一斉に開花するのではなく、大きくなった蕾から順番に開花するので、同じ株でも長期間花が見られる。
したがって、木全体が花に覆われると言ったことはない。野生のものは、装飾花が白、両性花が青紫をした額咲きの花をつける。装飾花の花弁のように見えるのは、ガクが発達したものでアジサイ科に共通の性質である。
本来の花弁は、装飾花、両性花とも早落性で開花すると、まもなく脱落する。
葉は暗緑色、大型で厚く、両面に毛がある。木は2mを越え、根元から次々に枝を出し株立ちになる。各枝は、年々側枝を出しその先端に花を付ける。古くなった枝は多くの花をつけるが花房が小さくなる。
大きな花を付けさせるためには、古くなった枝を根元から切り取り、新しい枝と交代させると良い。水湿の地を好み、水切れを嫌う。午前中数時間日が当たり、午後の西日のさけられる場所が栽培に適する。
タマアジサイは、日本ではあまり栽培されないが、欧米では中国産のタマアジサイ類も含め庭園樹として評価されている。半日陰の場所で2mを越えるような、こんもりとした株立ち状に育てられる。
分布は、福島県南部以西、関東、中部、岐阜県までという、比較的狭い限られた範囲である。近畿以西、福島県北部以北にはない。四国の分布は確認していない。関東では、ヤマアジサイと、しばしば混生しているが、タマアジサイのほうが優勢に見える。
伊豆七島にはラセイタタマアジサイという葉が大型で質が厚く、毛深い変種が分布する。また、主な分布地から飛び離れて遠い黒島・口之島・諏訪之瀬島に、変種トカラタマアジサイが分布するが個体数は非常に少ないという。
タマアジサイの日本国内での分布は、上記のようにあまり広いとはいえない。しかし、よく似た近縁種は、中国、台湾、ヒマラヤ、ジャワ、スマトラなどアジアに広く分布し、多くの種に分化している。*
この点で、ガクアジサイやヤマアジサイとは、分布の様相が異なる。
ちなみに、ガクアジサイの分布は、三浦半島、伊豆半島、伊豆諸島に限られ、国外には似た種類もない。ヤマアジサイの分布は、よく似たエゾアジサイを含めても北海道南部から九州に限られ、国外では朝鮮半島南部済州島などにヤマアジサイと同種とも言われる1種が分布するだけである。**
*日本のタマアジサイ、中国・台湾などのアスペラ近縁種は、タマアジサイ亜節に分類されている。
** コアジサイ、ガクウツギ、コガクウツギなどを含む、アジサイ亜節をとれば日本、中国、台湾、インドシナなどアジア大陸とその周辺に広く分布する。特にガクウツギ系の分化が著しい。
●アスペラ近縁種

左右とも、Hydrangea villosa ウイローサ(ビローサ) 中国産。高さ2m以上の大きな
株立ちになる。アスペラの仲間としては、葉も小さく細い、小さな株でもよく開花する。
左、2004.9.17.相模原麻溝公園。右、2004.9.17.相模原北公園
左:Hydrangea
sargentiana 中国産、展開展開し始めた蕾。
右:H. sargentiana は三角形の小さな苞がたくさんある。
日本産のHydrangea involucrataは丸い大型の苞が少数ある。

左:H. sargentianaの若い茎や葉柄には毛が密生している。
右:H. aspera?
写真:上左右と下左2003.6.9.鎌倉鶴岡八幡宮、下右2004.6.18.箱根強羅公園
●タマアジサイの仲間は、日本、中国、台湾、ジャワ、スマトラ、ヒマラヤまで広い範囲に分布し、多くの種に分化している。しかし、近年中国、台湾産の種をHydrangea
asperaに統合する考えが有力になっている。
この場合、これまで独立の種とされてきたものは、アスペラ種の品種、変種、亜種などとなり、種内変異と見なされる。そのような考えに基づく分類の1例を示す。
Hydrangea aspera:ヒマラヤ〜中国雲南に分布
H. aspera 'Kawakamii':台湾に分布、木の勢が良いとツルになることもある。
H. aspera. 'Robusta':ヒマラヤ、シッキム、ブータンに分布、樹高5mになる。
H. aspera. ssp. sargentiana (H. sargentiana):中国原産、多毛。
H. aspera. var. villosa (H. villosa):中国原産、葉に褐色長毛がはえる。
●タマアジサイは、アジサイ属Hydrangeaの中では、系統的にヤマアジサイやガクアジサイより、ノリウツギやカシワバアジサイ、アメリカノリノキ(アナベルの原種)に近縁といわれる。

ノリウツギ H. paniculata 日本原産、2002.7.9.撮影箱根

左:カシワバアジサイ H. quercifolia 、2003.6.19.箱根強羅公園
右:アメリカノリノキ H. arborescens 、2003.6.19.箱根強羅公園
2.タマアジサイの名
初めにも書いたように、タマアジサイの名は、蕾がしっかりした苞(ほう・苞葉)に包まれ、大きなまん丸い形になることによる。しかし、この名は、あんがい新しく明治になって、標準和名としてタマアジサイが決まってから使われるようになったようです。
それ以前使われていた、タマアジサイの古名は、江戸時代から明治初めまで、ギンバイソウ、ギンガソウ、サワフタギ、ギョクダンカ(普通のタマアジサイに対してこの名が使われている)などが知られている。
タマアジサイの学名は、Hydrangea involucrata Sieboldである。
命名者の名Sieboldは、長崎に来た医師であるシーボルトである。彼が帰国後出版した『Flora Japonica』には、野生型のタマアジサイとギョクダンカと思われる2葉の図が含まれている。タマアジサイは、シーボルトによって初めて世界に公式発表された。
京都大学電子図書館で京都大学理学部植物学教室所蔵 『Flora Japonica』が公開されているので本文図とも見ることができる。
タマアジサイ Hydrangea involucrata Sieb. f. involucrataの図
http://ddb.libnet.kulib.kyoto-u.ac.jp/exhibit/b01/image/01/b01s0259.html
タマアジサイの変異品としては、ギョクダンカ(玉段花)、ヨウラク(瓔珞)タマアジサイ、ココノエ(九重)タマアジサイ、テマリタマアジサイなどが記載(学名がつけられ)され、標準和名が決められてる。
その後も各地で似たような変異品が発見され、品種名がつけられているものもある。そのようなものの中にも、ギョクダンカ(玉段花)、ヨウラク、ココノエという名が付けられたものもあるが、最初に記載されたものとは、少しずつ異なっている。
また、正式に記載される以前から、すでに変異品は、知られていて、江戸時代の書物に図や特徴の記述が見られるものもあるが、品種名は必ずしも統一されていない。また江戸時代の書物にある品種名は、標準和名とも一致しないことが多い。
例えば、山本武臣氏によると、幕末の本草学者である、飯沼慾斎の「草木図説」の中に、ギョクダンカとして載っている説明文と図は、現在の標準和名でココノエタマアジサイと呼ばれているものに相当するという。さらに幕末には、現在のココノエタマアジサイと同様のものをヤエノギョクダンカとも呼んだという。
3.タマアジサイの変異品
変異株は、古くから各地で発見されているが以下に主なものを上げてみた。近年発見されたものは品種名がついて販売されているものもある。また、イギリスでは、シーボルトが記載した、ギョクダンカと同じものが今も栽培されているという。

ヨウラクタマアジサイ、左は開花初期、右は咲進んだようす。
勢いがあるとさらにガク片の段数を重ね、ひも状(瓔珞状)に伸長する。
左右とも、2004.9.17.相模原北公園

左、八重タマアジサイ、2004.9.17.相模原北公園
右、手毬タマアジサイ、2004.9.17.相模原北公園
a.ギョクダンカ H.i.f.hortensis
タマアジサイの八重化品の1つ。装飾花、両性花とも八重化している。装飾花の位置の花はやや大型。ガク片は、丸弁。ヨウラク、ココノエは、ガク片がやや細い。
シーボルトの「フローラ ヤポニカ」にも図が載っている。その図は、小花数の少ないタイプのギョクダンカと思われる。ピンクの花である。小花数50個位。
京都大学電子図書館で、京都大学理学部植物学教室所蔵 『Flora Japonica』公開。
Hydrangea involucrata Sieb. (monstr. floribus omnibus plenis)の図
http://ddb.libnet.kulib.kyoto-u.ac.jp/exhibit/b01/image/01/b01s0260.html
このタイプの花の写真が、「日本のあじさい」山本武臣編には、「ヤエノギョクダンカ」の品種名で載っている。
同じ本の「ギョクダンカ」は、両性花の位置の八重の花がもっと多いタイプである。
その後、愛知県(岐阜・長野?)矢作川周辺で発見されたものには、ヤハギギョクダンカの品種名が付けられている。
b.ヨウラクタマアジサイ H.i.var.mulutiplex
中井猛之進、昭和23年、伊豆大島で発見命名。
「八重無性花がが幾重にも段咲きになる変種」装飾花、両性花とも八重の塔咲きとなるが八重化しない両性花も混在する。
装飾花の位置の花はやや大型。八重八重化した花は、無性花となり花軸が伸長し、ガク片を作り続ける。花軸が伸びて、ひも状になるのをヨウラク(瓔珞)に見立てた名。
その後、山梨県甲府付近でも同種類の変異株発見された。品種名は、甲府ヨウラクタマアジサイ。伊豆大島岳の平地区でもやや異なるタイプのヨウラクタマアジサイが発見されている。
c.ココノエタマアジサイ H.i.f.plenissima
津山尚、昭和27年、神奈川県箱根二子山で発見命名。
「ヨウラクと同型だが両性花はない。全て八重化して小花の数は、数百に達する。ガク片の重なりは、時に20〜30枚になる。装飾花の位置の花はやや大型。」
花の色は、緑白色から白色、ときに淡ピンク〜淡藤色を帯びる。
江戸時代から同種の変異株が知られていた。古名では、ヤエノギョクダンカともギョクダンカとも呼ばれた。
大正年間に箱根付近でも発見されているという。さらにその後、伊豆大島でも同種の変異が発見され、品種名をミハラココノエタマアジサイいう。
d.テマリタマアジサイ H.i.f.sterilis
林弥栄、昭和30年、神奈川県丹沢で発見命名。
タマアジサイのテマリ咲き。
明治、あるいはさらに古くから一部で栽培されていたという。
e.裏木曽八重デマリ
長野県の裏木曽で発見された、八重のテマリ咲きタマアジサイの品種名。
f.玉簪:タマカンザシ
長野県伊那谷で発見された、八重のテマリ咲きタマアジサイの品種名。
f.八重タマアジサイ
装飾花だけが八重化した額咲きのタマアジサイ。やや小型という。
g.装飾花が着色するタマアジサイ
普通白色の装飾花に淡桃色〜淡青紫色の色が付く個体は、各地で発見されている。
淡紫色の装飾花・丸弁、2004.9.10.横浜、
横浜市内で他にも同様の個体を1個体観察している。

松本市郊外鉢伏山で百瀬 正さん撮影。装飾花だけでなく全体に淡桃色、
右の写真だけではタマアジサイと思えない色の花。
詳しくは以下のサイトをご覧下さい。
http://www.geocities.jp/mtmt1952/index.htm
h.緑タマアジサイ
装飾花は淡緑色、両性花は青紫色をした額咲きの花をつける。
装飾花は、開花初期から淡緑色だが両性花の色は、野生品と変わらず、ファイトプラズマの感染による緑化ではない。
i.ヌマアジサイ
このタマアジサイは、花の色が装飾花、両性花とも淡赤色。産地不明。多田滋氏発見?詳細不明。「日本のあじさい」にこの名で写真が載っている。
4.タマアジサイの雑種
現在紹介できるのは1つだけです。
a、H.アスペラ×H.タマアジサイ Hydrangea aspera x involucrata
アメリカにある”Heronswood Nursery”の販売カタログのページに、写真と共に詳しい紹介があることを平野庸氏に教えていただきました。詳しくはそのサイトを見ていただくのがよいと思いますが概要を載せておきます。
この品種は、中国産のアスペラに日本産のタマアジサイを交配して、英国のMark Fillanが作出した。品種名は記されていない。
雑種強性を示し、生育旺盛で多くの花を付け、次々に開花し、開花期間が非常に長い。装飾花は白色、両性花は紅紫色で大型の額咲きとなる。装飾花のガク片は、写真で見ると丸弁で4〜6枚ある。
この品種の紹介ページのURLなどを載せておきます(2004.9.27.現在)。販売カタログのページなので変更になるかも知れません。その時はホームページからソートしてみて下さい。
http://www.heronswood.com/catalog/01703?GkbEcjxq
hydrangeaでソートすると67品種のリストとが出ました。ていねいな説明と、大部分の品種に良い写真が付いています。日本の種苗会社にもがんばってほしいところです。
また、ヤマアジサイの新しい品種が並んでいるのには驚かされます。
http://www.heronswood.com/catalog/catsearch?GkbEcjxq;0:100;6
Heronswood Nurseryのホームページ
http://www.heronswood.com/
5.タマアジサイのサイト
a、平野庸氏のサイト
2004.8.の私信から:多数の人から「英語での頁を作ってくれ!」と言われまして、タマアジサイを中心にして日本のアジサイについて紹介するHPを作りつつあります。
広く世界に開かれた、印象的なサイトです。これからの充実が期待されます。
http://www.geocities.jp/hirano3554/
b、アジサイ・フォト・ギャラリ
アジサイ研究家、故山本武臣氏のご子息山本 敏文(Toshifumi Yamamoto)氏が開いているサイトです。タマアジサイの多くの品種を、写真で見ることができるのはここだけです。
冒頭の挨拶文の一部:あじさい(紫陽花)の青い花色に魅せられ、晩年の30年間、あじさいの収集・研究に没頭した山本武臣が撮影したスライド写真が数千枚・・・その中から比較的写りの良いものを選び順次掲載していきます。
http://www.azisai.com/Index.html
●タマアジサイの表情

左中央の両性花は開花したばかりで本当の花弁が付いている。
下方のの両性花は花弁が散った後。右下両性花の雄しべの元
にある小さな突起がガク片。装飾花ではこのガク片が大きく発達
する。2004.7.9.箱根

左:未開花の両性花が少なくなると装飾花が開花する。
白いガク片の上に青い花弁が乗っている。2004.9.10.横浜
右:花が終わり実ができた状態。装飾花は裏返しになっている。2004.9.3.箱根
参考にした本:アジサイ・ニューサイエンス社、日本のあじさい・一関観光協会、あじさい・相模原市みどりの協会、すべて山本武臣氏著または編、解説。 |